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大阪地方裁判所 平成7年(わ)295号 判決

本籍

大阪府枚方市田口一丁目六六番

住居

同府同市田口一丁目六六番二一号

会社役員

鈴木喜九男

昭和一〇年五月三〇日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官仁田裕也出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役二年及び罰金五七〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、大阪府枚方市田口一丁目六六番二一号に居住し、同所で、「鈴木組」の商号で型枠工事業を営んでいた者であるが、自己の所得税を免れようと考え、

第一  平成二年分の総所得金額が一億八〇三二万〇四三五円であった(別紙1の1の修正損益計算書参照)のにかかわらず、架空外注費を計上するなどの行為により、その所得の一部を秘匿したうえ、平成三年三月一三日、大阪府枚方市大垣内町二丁目九番九号所在の所轄枚方税務署において、同税務署長に対し、平成二年分の総所得金額が一六四九万〇二五二円で、これに対する所得税額が四三三万四八〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額八五七六万一七〇〇円と右申告税額との差額八一四二万六九〇〇円(別紙2の税額計算書参照)を免れ、

第二  平成三年分の総所得金額が二億三五九八万五六二七円であった(別紙1の2の修正損益計算書参照)のにかかわらず、前同様の方法により、その所得の一部を秘匿したうえ、平成四年三月一一日、前記所轄枚方税務署において、同税務署長に対し、平成三年分の総所得金額が二二一二万七一二七円で、これに対する所得税額が六七〇万九〇〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額一億一三五八万六五〇〇円と右申告税額との差額一億〇六八七万七五〇〇円(別紙2の税額計算書参照)を免れ、

第三  平成四年分の総所得金額が一億〇七二二万八〇九九円であった(別紙1の3の修正損益計算書参照)のにかかわらず、前同様の方法により、その所得の一部を秘匿したうえ、平成五年三月一二日、前記所轄枚方税務署において、同税務署長に対し、平成四年分の総所得金額が一八三六万〇五九九円で、これに対する所得税額が四九六万五六〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額四九〇五万六四〇〇円と右申告税額との差額四四〇九万〇八〇〇円(別紙2の税額計算書参照)を免れた。

(証拠の標目)

注・以下において、証拠中、末尾の括弧内に記載した漢数字は、証拠等関係カード(請求者等検察官)の証拠請求番号を示している。

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書四通(二八ないし三一)

一  西元利雄の検察官に対する供述調書(二七)

一  大蔵事務官作成の査察官調査書一三通(八ないし二〇)

一  大蔵事務官作成の証明書(青色申告書提出の承認取消についてのもの)(二六)

一  収税官吏作成の「所轄税務署の所在地について」と題する書面(七)

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の証明書(平成三年三月一三日に申告した所得税の確定申告書写についてのもの)(四)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(期間が平成二年一月一日から同年一二月三一日までのもの)(一)

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の証明書(平成四年三月一一日に申告した所得税の確定申告書写についてのもの)(五)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(期間が平成三年一月一日から同年一二月三一日までのもの)(二)

判示第三の事実について

一  大蔵事務官作成の証明書(平成五年三月一二日に申告した所得税の確定申告書写についてのもの)(六)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(期間が平成四年一月一日から同年一二月三一日までのもの)(三)

(法令の適用)

被告人の判示各所為は、いずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、いずれも所定の懲役と罰金刑とを併科し、かつ、各罪につき情状により同条二項を適用し、以上の各罪は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役二年及び罰金五七〇〇万円に処することとし、同法一八条により、右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用して、この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

(量刑の理由)

本件は、型枠工事業を営んでいた被告人において、三年度にわたり、合計二億三二三九万円余もの所得税を脱税した事案であり、ほ脱額自体多額であるうえ、ほ脱率も三年度合計で約九三・六パーセントと極めて高率な脱税事犯である。そして、脱税の動機、目的をみても、被告人は、事業が景気に左右される業種で、不況時にも職人を確保しておくための資金が必要であり、また、事業の後継者がいないことから自身の老後に備え、あるいは、家族等の関係で多額の支出が必要であったためなどとするものの、隠匿した所得の一部相当額は貴金属購入等の個人的出費に充てられているとともに、そもそも、被告人の述べる事業関係での資金蓄積も、正当に納税義務を果たしたうえで行なうべきであることは当然のことであり、とくに酌むべきものはなく、また、経理担当者にメモ書を渡すなどして自ら指示し、多額の架空外注工賃を計上させるなどして、所得を秘匿し脱税したもので、その納税意識の欠如が明らかであることなどからすると、被告人の責任は相当重いというべきである。

しかし、他方で検討すると、脱税した所得の大部分は、仮名、借名預金に留保するなど、その脱税所得秘匿の方法は比較的単純なものであったこと、さらに、被告人は、本件摘発後、自己の非を認めて事実関係を認め、法廷での反省態度も顕著であり、また、本件脱税に関し、既に修正申告により本税は納付済みで、延滞税、重加算税等の付帯税も分割納付中であり、現在、事業を法人化し、新たに依頼した税理士の指導のもとに適正な経理処理及び税務申告に努め、今後の再過なきことを誓っていることなど、被告人に有利に考慮すべき事情も認められる。

そこで、これら諸般の事情を総合考慮し、被告人を主文掲記の懲役及び罰金刑に処し、懲役刑については、その刑の執行を猶予することとした。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 竹田隆)

別紙1の1

修正損益計算書

総所得金額

〈省略〉

事業所得

〈省略〉

別紙1の2

修正損益計算書

総所得金額

〈省略〉

事業所得

〈省略〉

別紙1の3

修正損益計算書

総所得金額

〈省略〉

事業所得

〈省略〉

別紙2

税額計算書

〈省略〉

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